声の共鳴のメカニズム

人は本来、声を共鳴させることで声を増幅させることができます。

 

共鳴とは?

 

簡単に言えば、音を増幅させるための物理の法則です。

 

音とは、空気が振動することで生じる波のことで、四方八方に拡散する性質があり、障害物に当たると反射します。

 

閉ざされた空間、

 

例えば、トンネルの中で声を出した時、普段より大きく響いて聞こえると思います。

 

この現象が共鳴です。

 

これは、トンネルという閉ざされた空間の中で音の波が絶え間なく反射することで音が増幅することで起こります。

 

また、ほとんどの楽器には空洞になった部分があります。

  • 打楽器であれば叩く
  • 弦楽器であれば弦をはじく
  • 管楽器であれば息を吹きかける

ことで音が作られ、作られた音が楽器の空洞によって音の波が反射を繰り返し増幅されます。

 

共鳴を起こすためには空洞が必要なのは、そのためです。

 

人の身体にも空洞があり、上から鼻腔(鼻の奥にある空洞)、口腔(口の中)、喉頭(のど)、気管です。

 

しかし、共鳴に使われる空洞は、鼻腔と気管だけだと考えます。

 

他の、口腔、喉頭は、声を出すために空気を流す必要があるため音が反射できず共鳴できないからです。

 

ただ、 

  • 喉頭には声帯があり、声の基(もと)の音を作る
  • 口腔のは舌があり、は声(複雑な音)を作る

ために重要な空間であることには間違えありません。

 

ここで、発声の原理を簡単に説明していきたいと思います。

 

声を出すためには肺から息を出す必要があります。

 

ですので、まず、呼吸の原理を説明する必要があります。

 

呼吸は、肺の中にある肺胞とその周りの胸腔との気圧の差が生じることで行われます。

 

息を吸う時には、横隔膜という呼吸筋が収縮することで胸郭全体が広がります。

 

そうすると胸郭の中の気圧が下がります。

 

気圧が下がったままだと大変なことになるため、肺を膨らませて気圧を一定にしようとします。

 

この時に空気が入ります。

 

逆に、息を出す時は横隔膜が弛緩(ゆるむ)ことで胸郭が縮み、胸郭の中の気圧が上がります。

 

気圧が高いままだと大変なことになるので、今度は肺を縮めて気圧を一定にしようとします。

 

この時に肺胞から気管を通り息が出されます。

 

そこで、出された空気が喉頭にある声帯を通ります。

 

ただ息を出す時は、息が出やすいように声帯が開きます。

 

ですが、を出す時には声帯が締ります。

 

声帯が締まることで、声帯を通る空気の流れが速くなり声帯が振動します。

 

この振動が声の基の音になります。

 

ちなみに声帯は引っ張られるほど振動が細かくなり音が高くなります。

 

この時に、輪状甲状筋という筋肉が働き甲状軟骨が前に傾くことで声帯が引っ張られます。

あと、甲状披裂筋という筋肉が働くことで声帯の厚みなどを調節することで声帯の震え具合を変えることができます。

 

なので、声帯では、声の基の音の高低と震え具合(ビブラート)が作られると考えられます。

 

ですが、これらの機能だけでは声にはなりません。


声にするためには、この基の音に複雑な音を加えなければいけません。

 

声は、声帯で作られた基の音が口腔(口の中)に入り、さらに顎と舌を巧みに動かすことで複雑な空気の流れが作られ、複雑な音の振動が生じることで作られます。

 

ただ、この声帯と口腔で作られた音では、小さい音しか出せません。

 

これらの音を、体の中にある空洞によって音を増幅させなければいけないのです。

 

そのためには、空気の流れのない空間が必要です。

 

なぜならば、たえず空気が流れていると音が留まらず、空洞の中で音の波が反射できないからです。

 

ただ、

 

このように考えると、声を出す時に空気の流れの少ない空間は、鼻腔と気管だけです。

 

ただ、呼吸と共に気管にも空気が流れます。

 

ですが、声帯が閉じると空気が圧縮されて閉じ込められた状態になり、気管を流れる空気の流れは遅くなります。

 

なので、鼻腔と気管が共鳴に適していると考えます。

 

ここで、疑問に思うかもしれません。

  • リコーダーやフルートなどの管楽器は、管に息を吹きかけて音を出しているのでは?
  • なので、喉頭や口腔を通る時に音が共鳴するのでは?

という疑問です。

 

これは、笛を吹くようなイメージで声を出すものと思っているからです。

 

ですが、このようなイメージで声を出そうとしても、身体の機能をフルに使えないため、とても非効率で出せる音階が限られてしまいます。

 

音域が狭いと悩んでいる人は、このようなイメージに縛られてしまっているのです。

 

たしかに、管楽器は息を吹きかけることで音を出します。

 

しかし、共鳴させる空洞には、空気はほどんど流れていないのです。

 

口から吹きかけられた空気が細い空洞を通り、エッジ(人の体でいう声帯)と呼ばれるところで振動が生じ、基の音が作られます。

 

吹きかけられた空気の流れは、管を通らずエッジの近くにある空気の抜け穴を通り外へ流れ出ます。

 

エッジで作られた基の音の振動だけが空洞の中で共鳴を起こすのです。

 

穴を塞いで音階が決まるのは、閉ざされた空洞の長さを決めることで特定の音階の音の波長だけを共鳴させるためです。(下のドは穴を全部塞いで、レ・ミ・ファと音階を上げるごとに指を離すのは、閉ざされている空洞の長さを短くするためです。)

 

なので、音を増幅させるために空気を流しているわけではありません。

 

これが、管楽器の共鳴のメカニズムです。

 

ところが、人の共鳴のメカニズムは、管楽器とちがいます。

 

管楽器は空洞部分が筒状になっているため、定まった周波数の音しか共鳴させられません。

 

それに対して、人の体は複雑で筒状ではなく、さまざまな波長の音を共鳴させることができます。

 

そういった点で言えば、管楽器よりも弦楽器の方がしっくりきます。

 

弦楽器は、太さの異なる弦を弾いたり、弦を押さえる箇所を変えることで振動数が変わり音階を変えることができます。

 

そして、共鳴を起こす空洞は同じ大きさの箱の中です。

 

弦の種類や押さえる場所が違っても、しっかり共鳴が起こるところが、管楽器との大きなちがいです。

 

人の発声システムは管楽器のリードによる振動と弦楽器の共鳴の良い所を取っていると言えます。

 

さらに、声帯だけではなく口腔で音を複雑に作ることもできる優れものです。

 

ということは、音の高低も口腔で作ることが可能だと考えられます。

 

声帯と口腔で作られた音の振動が狭い鼻腔と広い気管に伝わります。

 

そうすると、高い音は鼻腔で共鳴し、低い音は胸郭で共鳴します。

 

この2つの共鳴腔で同時に共鳴させるのがダブル共鳴です。

 

このシステムは、鼻腔と胸郭という人体の空洞に声を共鳴させて増幅させるものです。


ただ胸郭といっても、胸郭全体が共鳴するわけではありません。

 

実際に共鳴するのは胸郭の中にある「気管」です。

 

気管が共鳴した声の振動が胸郭全体に振動します。

 

これを共振と言います。

 

気管に声が共鳴した声が胸郭で共振したことを感覚的に「胸に響く声」と例え、胸声と言ったりします。

 

このことから、気管で共鳴した声を便宜上「胸郭共鳴」といたしました。

鼻腔と胸郭が同時に共鳴することで、倍音が生まれます。

 

この倍音こそが、豊かな声を醸し出すダブル共鳴のメカニズムです。