脱力トレーニングの原理

脱力トレーニングとは、力を抜いて動作を行なうトレーニングのことをいいます。

 

「力を抜いて体を動かす?どういうこと?」と思われるかもしれませんが、体の動きの質を高めパフォーマンス向上には欠かせないことです。

 

「力を抜く」と言っても筋肉に力がまったく入らなければ体を動かすことはできないので、まったくは筋肉を使わないことではありません。

 

そもそも筋肉とは骨を動かすためものですが、筋力とは骨を動かす時に生じる力のことであり、筋肉が縮む力ではありません。

 

人が体を動かすことができるのは、筋肉の力を骨を動かすテコとして利用しているからです。

 

なので、筋肉の力が体を動かす力に直接反映されているわけではありません。

 

テコとは、小さな力で重い物を動かしたり、小さな動きで大きく速く動かしたりするための棒のことを言い、テコを用いた時の力学な原理のことをテコの原理と呼びます。(物理学では、回転モーメントといいます。)

 

テコの原理では、3種類のテコがあると言われ、

  • 第1のテコ・・・釣り合いのテコ(力の釣り合いをとるテコ)
  • 第2のテコ・・・力のテコ(小さな力で大きな力を出すためのテコ)
  • 第3のテコ・・・速度のテコ(遅い動きで速い動きを生み出すためのテコ)

 

身近な道具や機械は、テコの原理が多く用いられています。

 

そして、人をはじめとする脊椎動物も骨をテコに使って体を動かしています。

 

骨をテコとして、筋肉の縮む力を関節を支点にして力の方向を変えることで体を動かしています。

 

ですが、骨を動かすテコの多くは体を大きく動かすことには効果的ですが、大きな力を出すには非効率です。

 

なぜかと言いますと、人の身体のテコは、速く動かすのには適していますが力を出すのには適していない第3テコが多く用いられているからです。

 

このように考えると、テコによって生じる力は筋肉の縮む力の数分の1の力しか発揮できないことになります。

 

しかし、身体の使い方によってはそれよりも強い力を出すことができます。 

 

それは、地球の重力の力をうまく利用することができるからです。

 

重力の働きを考慮に入れれば、生理学で言われているテコの原理が通用しなくなります。

 

生理学的に言われている骨のテコの働きは、関節の構造だけを考えて、その動きだけを見ているからです。

 

重力の働きを考慮に入れることで、骨のテコの解釈が大きく変わります。

 

そして、地球上の物質には、地球の重力に対して抵抗する力を持ち、この上に働く力を垂直抗力と言います。(運動学では床反力と言われています)

 

垂直抗力は硬い物質ほど強く働く性質があり、体の中で一番垂直抗力の強いパーツが骨です。

 

人が重力に逆らって体を支えることができるのは、硬い骨があるからです。

 

そして、骨を動かすことで骨にある垂直抗力を使って大きな力を出すことができます。

 

筋肉の収縮する力を使って骨を動かすことで、上方向に働く骨の垂直抗力の方向を前後左右と自在に変えることができます。

 

また、体を動かす時、一つの筋肉だけで動くのではなく、いくつもの筋肉が連動して一つの動作が行われます。

 

このとき、動作に使われる筋肉を主動作筋といい、その反対の働きをする筋肉を拮抗筋といいます。

 

普段の生活では、主動作筋が働いている時には、拮抗筋は働かないようになっています。

 

しかし、精神的な緊張(ストレス)が強くなると拮抗筋にも力が入ってしまい、自分の意志とは反して全身の筋肉が緊張してしまいます。

 

全身の筋肉が緊張してしまうと、骨を動かすために筋肉が連動して働くことができなくなり骨の動きにブレーキがかけられてしまいます。

 

この状態を、「力み」と呼んでいます。

 

「力んだ」状態を車の運転で例えると、ブレーキを踏みながらアクセルをふかすような状態です。

 

精神的に緊張する場面に遭遇した時、「力を抜こう、抜こう」と思っていても、とてもじゃありませんが力を抜くことなどできません。

 

なぜかと言いますと、人が体を動かすためには必ず筋肉を使わなければならないからです。

 

ですので、筋肉の力を抜きながら体を動かそうとすることは脳のシステムに矛盾しています。

 

このことが「脱力動作」を難しくしているゆえんです。

 

ここで、「筋肉の力を抜く」こと「脱力」を意識せずに脱力動作をトレーニングすることが脱力クリエイトの脱力トレーニングです。

 

このためには「骨を中心に体を動かす」という意識が必要です。

 

そうすれば、脳のシステムに矛盾なく脱力して体を動かすことができるようになり、緊張を力に変えることもできるようにもなります。

 

この状態で身体を動かしていけば、意識的に筋肉の力を抜かなくても自然と脱力動作を行えるようになります。