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前職の新人教育での経験談⑤「車椅子への移乗②(先入観の払拭)」

前回「前職の新人教育での経験談④「車椅子への移乗①(空間意識®︎の発見)」の続きです。

車椅子移乗が上手くなった新人さんでしたが、ある患者さんの車椅子移乗に対して強い恐怖心を抱いていました。

この恐怖心を払拭した時の話です。


新人教育も順調に進み、マッサージや指圧、可動域訓練、車椅子移乗などあらゆるスキルを身につけていた。

そして、起き上がり、立ち上がり、歩行訓練の必要な患者さんへのリハビリのスキルを教える段階へと進めることとなった。

ただ、ある患者さんの車椅子への移乗を行おうとしなかった。

私が、
「どうしたんですか?」
と問うと
「車椅子への移乗が怖くてできないんです」
と答えた。

そこで、
「私がやるので見ていてください」
と言い、移乗を行った。

この患者さんは、比較的大柄ではあるが車椅子への移乗に関しては比較的難易度の低く、むしろ移しやすい人である。

さらに、ある程度脚の筋力もあり、自力で立つことはできないが足を突っ張ることはできる。

なので、大きな力を必要としない。

実際に、小柄な介護職の人でも難なく移乗させているぐらいだ。

この当時の患者さんは、高齢で比較的軽い人ばかりであったため、比較的大柄な人の移乗を行う機会が少なかった。

そのため、新人さんが恐怖するのも当然だったのかもしれない。

ただ、怖いからと言って、私が代わりに移乗させるわけにはいかない。

なぜならば、数ヶ月後には退職するのだから。

その後、時間が空いた時に
「何が怖いのですか?」
と聞いた。

そうしたら
「重そうで支えきれない気がするんです。」
と答えた。

大柄な患者さんとは言っても、大柄な新人さんに比べれば小柄な人ではある。

そこで、私は、
「もしそうだとしたら、〇〇さんよりも小柄な私も移乗できないですよ」
「他の患者さんと同じ要領で行っても大丈夫ですよ」
とは言ったが、それでも不安でいっぱいなようだった。

そこで、私が、
「車椅子へ移す時、肘を曲げて持ち上げますよね」
「肘を曲げた状態って、とても強いので力負けすることはないんですよ」
そう言い、私が肘を曲げて構え
「この状態から、私の腕を下に押し下げて見てください」
と言い、新人さんに私の手を下に押し下げてもらった。
続けて、
「私は〇〇さんよりも小柄で力もなければ体重もありませんが、このように押し下げれませんよね。肘が曲がっていれば重い人でも大丈夫なんですよ」
と言った。

そして、
「今度は、私が脚に力を入れずに座りますので車椅子に移す要領で私を持ち上げて見てください。小柄な私でも△△さんよりも体重は重いですよ」
と言い、新人さんに持ち上げてもらった。

当然、何の問題もなく私を持ち上げることができた。

「どうです?問題なく持ち上げれましたでしょ?」
と言うと、
「なんかできるような気がしたので、頑張ってみます」
と新人さんが答えた。

その翌日、大柄な患者さんの車椅子移乗を行ってもらい、無事、移乗させることができた。

実際に行ってしまえば、あっさりと移乗させることができ、拍子抜けしたみたいで、
「大田先生の言った通りでした」
と言い、
「この調子で頑張ってください」
と笑みを浮かべながら答えた。

これで、ベット上で行う筋力訓練と起き上がり訓練、平行棒で行う立ち上がり訓練と歩行訓練への指導へと移行することができると安心した。


この新人さんは、大柄な体型とは裏腹に、気が優しく慎重な性格であったがために、難易度の高そうなことに対して尻込みしてしまうところがありました。

ただ、怖いと思うところなどを素直に教えてくれたので、比較的短期間で習得することができたと思います。

人は、思っている以上に先入観や思い込みに支配されてしまうもの。

この新人さんも、重くて支えることができないのでは?という思い込みに支配されていたのでしょう。

そのことで、行動が制限され「できない」となってしまったのだと思います。

でも、実際に行ってみたら「あれ、できる」と思うことって多くあると思います。

ですが、思い込みや先入観というものを払拭することって容易なことではないのかもしれません。

思い込みや先入観が緊張を生み、心身を萎縮させ、行動を制限してしまうのだと思うのです。